口の中の血豆が大きくなるメカニズムについて


口の中の血豆が大きくなる理由で注目したいのが「浸透圧」です。

血豆は食事中に発生することが多いので、血豆に歯や食べ物が当たったりする刺激は血豆を大きくしてしまう主たる原因ではあるのですが、一方で見落とされているのが血豆の中の血液の浸透圧の高さです。

浸透圧というと科学の授業でセロファンを使った実験を行った覚えがありますが、たとえば真水と食塩水がセロファンで仕切られていた場合、真水が食塩水の側へセロファンを通り抜けて移動します。つまり食塩水の側の嵩(かさ)が増えます。

半透膜であるセロファンは分子の小さな水は透過させますが、分子の大きな食塩は透過させません。このときの水の移動を「浸透」と言い、浸透する力のことを「浸透圧」といいます。浸透は濃度の異なる2つの水溶液が半透膜を介して接していたときに、双方が同じ濃度になろうとする性質によって生じる現象です。濃度の差が大きいほど、浸透圧も大きくなります

翻って口の中の血豆を見てみましょう。生体の構造の中で「膜」と名の付くもののほとんどは半透膜なのではないかと思われますが、口腔粘膜もやはり半透膜です。その粘膜の内側の毛細血管が破れて生じた粘膜下出血が「口の中の血豆」なわけですが、小さいままでおとなしく収まるものもありますし、見る見る膨れて大きくなるものもあります。

「口の中の血豆が大きくなるのには浸透圧も関わっているのではないだろうか?」

というのは以前から漠然と抱いていた考えでしたが、口腔のむくみと血豆との関係について調べていた際に、その考えが的外れではないという確信を得ました。浮腫(むくみ)は細胞組織の間に余分な水分が滞ることで生じますが、その水分を血管内に回収するために作用しているのが血液の高い浸透圧です。

さて、浸透圧の作用で口腔内の水分が血豆の中へ浸透すると、血豆は内圧が上がってパンパンになりますが、そうすると何が起こるかというと、更なる粘膜剥離が生じます。内側からメリメリと粘膜が剥がされ、そこからまたぞろ出血が生じ、その血液がさらに口腔から水分を引くという悪循環です。



ちなみに、血液の浸透圧を高く保持している主要な成分としてアルブミンというタンパク質があります。血液中の透明な液体成分である血漿中のアルブミン濃度は3.5〜5.5g/dlで、アルブミン1gは17〜20mlの水を引くということですので、血液 1dl(デシリットル)には、およそ 60〜100mlもの水を吸収する能力があるということが言えます。

口腔の水分といえばやはり唾液ですが、唾液も一種の溶液であり、真水に比べれば高い浸透圧をもっています。けれども唾液はその時の状況によって濃い唾液が分泌されたり、サラサラした薄い唾液が分泌されたりします。自律神経の働きで自動的に調節されているのですが、一般に食事の時は粘度の低い、つまりは浸透圧の低いサラサラした唾液が分泌されます。

飲食しているときであればその物によっても口腔内の水分の浸透圧は変化しますが、それが血豆の中の血液の浸透圧よりも低ければ血豆は膨張し、その内圧によってさらなる粘膜の剥離が生じて出血の範囲も拡大します。血豆が大きくなるのには歯や食べ物による刺激の他に、そうした血液の性質も作用しているものと考えられます。


〈追伸〉

一昨日、私は夜勤の合間に牛乳を飲みながらカップ焼きそばを食べていたのですが、頬の内側を噛んでしまいました。それほど強く噛んだわけでもないので、「血豆くるかな?どうかな?」と思ったのですが、やはり血豆が出来ました。けれども小さいまま大きくなる気配がなく、試みに牛乳でモグモグしてみたところ、水でそうしたときほどには血豆にしみる感じもありませんでした。「母乳の成分は血液に近い」というのは我が子が幼かった頃に何処かで聞いた話しですが、もし牛の母乳の浸透圧がそこそこ高ければ、血豆の出来始めに牛乳を口に含むという血豆の拡大抑制法もあり得るかもしれません。

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