肝臓と出血傾向


生物が体に取り込んだ栄養を生命活動に利用していく過程を専門的な言葉で「代謝」と言いますが、肝臓は代謝が行われていく過程で中心的な役割を担っています。食事から得られた栄養を素材として身体に必要なエネルギー源やアミノ酸を合成したり、代謝によって体内に生じた物質をリサイクルしたり、有毒物質を無毒化したり、その働きは多機能な化学工場のようでもあり、それと同時に生命を維持するために必要な栄養の備蓄庫としての役割も担っています。

肝臓はとても強い臓器で健常であれば処理能力にも余裕があるので少々の不調では症状が現れません。「沈黙の臓器」と言われる所以ですが、それだけにアルコールの多飲やウイルスによる慢性肝炎が長期間放置され、症状が自覚された時には取り返しのつかない状態に至っているということが有りがちです。

肝臓は大変重要な臓器ですので、ひとたび機能が損なわれると全身の栄養状態が悪化し、血液中にはアンモニアなどの有毒物質が増加して脳神経や他の臓器にも生死にかかわるような深刻な影響が及びます。

そうした肝臓の働きの中で、直接的に出血傾向と関連の深いものとして、肝臓は血液凝固に関わる血液成分の多くを産生しています。以下に詳しく記述します。

12の血液凝固因子とビタミンK


出血が起こりやすく止まりにくいという状況があるとき、血液の凝固性能に異常がないか疑ってみることは当然必要です。

血液凝固は実質12の因子(※)によって説明されていますが、そのうちの9つが肝臓で産生されています。さらにその9つのうち4つの産生にビタミンKが関与しています。


※第T〜XIII因子までが知られていますが、第Y因子は欠番となっています。

「12の血液凝固因子」のいずれかが欠乏すれば出血傾向が生じるわけですが、凝固因子のほとんどが肝臓で産生されていることから、やはり肝臓の働きが出血傾向に深く関わっていることが改めて理解できます。そしてビタミンKが肝臓における複数の血液凝固因子の産生に不可欠な栄養素であることも確認できました。

ビタミンKには植物由来のフィロキノンと動物由来のメナキノン-4、納豆に含まれるメナキノン-7とがあり、栄養的に特に有意義なのがメナキノンで、さらにメナキノン-7は同量のメナキノン-4と比較して高い生理活性が認められています。細菌によって作られるメナキノンは私達の腸内細菌によっても産生されています。

ちなみにビタミンKが多く含まれる食品は(※以下、100g 当たりの含有量)

〈フィロキノン高含有〉

 大豆油       210 μg
 ほうれん草(生)  270 μg
 ブロッコリー(生) 160 μg
 シソ(生葉)    690 μg
 焼き海苔      430 μg
 わかめ(乾燥)   660 μg 

〈メナキノン-4 高含有〉

 卵黄         40 μg
 鶏むね肉(皮付き)  35 μg
 鶏むね肉(皮なし)  14 μg
 牛肩肉 (脂あり)  23 μg
 ナチュラルチーズ   15 μg
 有塩バター      17 μg

〈メナキノン-7 高含有〉

 納豆        600 μg
 ひき割り納豆    930 μg


ということで、ひき割り納豆がダントツの含有量で、しかも生理活性が高いとされるメナキノン-7を含有しています。なお、ビタミンKは脂溶性ビタミンであるので、油と一緒に摂取すると吸収が良いということです。そういえば娘が体に良いと言って納豆にキムチとエゴマ油を入れて食べていましたが、なるほど理に適った食べ方のようです。私も「ひき割り納豆」で真似てみることにします。



(※ ビタミンKには他にも骨を丈夫にする作用や、動脈硬化を予防する作用のあることが知られています。)

さて、ビタミンKについて少し掘り下げてみましたが、以上のような背景からビタミンKが欠乏する原因としては、例えば油脂分の消化吸収を助ける胆汁の分泌が不足したり、抗生物質の投与で腸内細菌が減少したり、幼児で腸内細菌叢の未発達な場合など、種々の要因に関連してビタミンK欠乏の起こり得ることが考えられます。

血液の凝固性がリスクとなる疾患を抱えている方が摂取を制限されるビタミンKですが、本来は健康の維持に必要不可欠な栄養素であるはずで、その摂取が制されるということは、一方では身体に他の不具合を生じさせる要因にもなり得るわけです。そうした負の連鎖について考えると、本来的な健康がいかに有難いものであるかということに思いが至ります。とかく、失ってから気付く健康の大切さですが、血管事故によってもたらされる事態は深刻なものが多いので、日頃からの用心が本当に大切だと思います。


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